映画作家・想田和弘
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港町 (Inland Sea)

『港町』は、静謐な感動をもたらす、息を呑むほど美しいドキュメンタリーです。
島が美しい。海が美しい。そして猫も。
だけど際立って美しいのは、そこで暮らす人々。
穏やかだが衝撃的で、心を揺さぶるあの場面は、ごく自然に映画のなかに歩いて入ってきました。
これが、ドキュメンタリー映画の芸術なのです。
— ポン・ジュノ監督
(『パラサイト 半地下の家族』『グエムル 漢江の怪物』)
美しく穏やかな内海。小さな海辺の町に漂う、孤独と優しさ。やがて失われてゆくかもしれない、豊かな土地の文化や共同体のかたち。そこで暮らす人々。静かに語られる彼らの言葉は、町そのもののモノローグにも、ある時代のエピローグにも聞こえる。そして、その瞬間は、不意に訪れる……。
監督は、イタリア、カナダ、中国などでレトロスペクティブが組まれるなど、国内外で高い評価を受ける映画作家・想田和弘。ベルリン国際映画祭への正式招待が早々と決まった本作は、作品を重ねるごとに進化を続ける「観察映画」の新境地であり、同時に、現代映画のひとつの到達点である。しかし、我々は、この映画体験の美しさと比類のなさとを語る言葉を未だもてずにいる。あなたは、どうか?
想田和弘 観察映画第7弾『港町』
Observational Film #7
2018, 122 minutes, Documentary
ベルリン国際映画祭正式招待作品


Director’s Statement
「観察映画の十戒」を掲げて、「観察」をキーワードにドキュメンタリーを作り続けてきた。事前のリサーチやテーマ設定、台本作りをせず、目の前の現実をよく観てよく聴きながら、行き当たりばったりでカメラを回す。結論先にありきの予定調和を排除するための方法論である。
『港町』の撮影も、計画性とは無縁だった。前作『牡蠣工場』の合間にさしはさむ風景ショットを撮るために牛窓を歩き回っている最中に、港で作業するワイちゃんとたまたま出会った。牛窓版『老人と海』みたいだなあと思いながらワイちゃんの漁や語りを撮るうちに、カメラのフレームにクミさんも乱入し始めた。そこからさらにさまざまな人々に遭遇し、牛窓をぐるりと一回りするようにして、知らないうちに映画の素材が揃っていった。
つくづく思うことだが、映画の入り口は日常の思わぬ場所にぽっかりと開いている。その穴はあまりに小さく平凡に見えるので、うっかりすると見過ごしてしまう。しかしよく観てよく聴きながら入ってみると、豊かで魅惑的な世界が広がっている。
特に今回クミさんが誘ってくれた「穴」は、異界に通じるような、摩訶不思議なものだった。能の形式に、旅人が幽霊に出会い、幽霊がそこで起きた出来事を語って舞う「夢幻能」というのがある。夕暮れ時、クミさんに連れられ山の中に入り込んでいった場面は、奇しくもあれと似たような、かなり特異な体験をカメラに収めさせていただいた気がする。能が描くような世界をドキュメンタリーで撮れるとは思いもしなかったので、僕自身驚いている。クミさんのシーンに限らず、『港町』はドキュメンタリーでありながら、どこか夢の中の出来事のような、まぼろしを見たかのような感覚をもたらす。
編集が仕上げの段階に至るまで、この映画は全編カラーで作られていて、カラーコレクションも済ませていた。しかし柏木の突然の思いつきをきっかけにモノクロームにすることを決め、カラコレを一からやり直した。モノクロームには、映像に虚構の被膜を一枚かぶせるような効果があり、この映画にとても合っていると思う。というより、今では本作を目に浮かべるとき、モノクローム以外には考えられない。仕上げまでずっとカラーで見ていたことが信じられない。
想田和弘

「繊細で辛抱強く、見応えのある映画だ」
— バンジャマン・イロス(カンヌ監督週間)
「峻厳だが、軽やか。重層的なドラマ」
— シルヴィオ・グラッセッリ(映画批評家/ポポリ映画祭プログラマー)